終業チャイム
谷田の顔は少し寂しげで、伏せた目から見えた長いまつげが綺麗だった。
「なんで…?」
聞いていいものか と思ったが、聞かずにはいられなかった。
「離婚して、いいんですか…?」
谷田は黙りこくったままだった。
ただ、今まで見たことのない寂しい表情をしているだけ。
でも夫婦間にケンカやぶつかり合いなど日常茶飯事だろうし、谷田夫妻の離婚話の事などあたしが口を出す権利もない。
なにか話題を変えなければ、と思った時、谷田が一言だけ呟いた。
「結局はアレだ、“軽い憧れ”だったんだろ。」
“ほら、生徒と教師の恋って軽い憧れ…じゃ、ないですか…”
女子同士の他愛もない話の一言を谷田に向けた自分を、殺したくなった。
教師という立場の谷田にとってあの言葉は、
なんて無責任なんだろう。
知らなかったとはいえ、元教え子の妻と離婚話が出ている谷田を、傷付けた。
でも、
「でも、そんな程度の気持ちでは、告白なんてできないと思います。」