終業チャイム
単純に、すごいと思った。
生徒が教師に想いを伝えるという行動が、
生半可な興味本位ではないというのを表している。
あたしには、それができないから。
「理由は知りませんが、離婚しちゃだめです。」
こうやって、幸せを祈ることしかできないんだ。
“奪ってやろう”なんて、思えない。
谷田は再び黙り込んだ。
理由も知らないのに、少し図々しかっただろうか。
沈黙が流れる。
空気が重い。
気を紛らわせたくて、外に視線をやった。
いつも眺めている木が緑の葉を付け、弱い風に乗って揺れている。
「いつも眺めているよな」
「へっ?」
突然の谷田の声に驚き、声が裏返った。
谷田はあたしと同じように窓に目をやり、同じ木を見ている。
「…なんで、知ってるんですか」
多分あたしは、先ほどまで重い空気が流れていたというのに、期待してる。
“谷田があたしを気にしてる”ということが本当であればいいのに、と思っている。
谷田は窓の外の木に目をやりながら、口を開いた。