終業チャイム
「無意識に、山口を目で追ってたんだ。」
由希子、大正解。
だけどあたしの心は落ち着いていた。
谷田の目が、まだ寂しそうだからだ。
「嫁に似てんだ。背格好とか表情とか。」
どう頑張っても、届かないんだ。
あたしはその中に、入れない。
「もしもあたしが懐いていたら、先生はあたしを好きになってくれますか」
違うでしょう?
その人だから惹かれたくせに、そんなこと言わないで。
「悪ぃ…」
しまい損ねた宿題のプリントに涙が落ちた。
感じたのはぬくもりと、汗の匂い
力強くて、でも少しだけ震えた腕に包まれる。
谷田が耳元で、繰り返し「ごめん」と呟く。
謝らなくていいんだよ。
谷田なら、幸せな家庭を築けるから。
あたし、不倫は趣味じゃないから。