終業チャイム
「あー…チャイム鳴っちゃった。作業進まなかったねぇ。」
誰のせいだ、誰の。
そのまま由希子は「見たいテレビがあるから」と言って、後片付けをすべてあたしに丸投げして帰っていった。
作業スペースを作るために教室の後ろに寄せた机を元の位置に戻し、自分の席に座って一息ついた。
窓の外を見ると、空はうっすらと紺色に染まっている。
春に桜が咲いていた木に目をやると、木のそばに見慣れない人影があった。
「谷田…?」
谷田が、木のそばに立っていた。
ずっと立ち尽くして、木を眺めている。
しばらくすると、谷田は駐車場に移動して車に乗り込み帰っていった。
“奈緒のこと気にしてる感じだもんね!”
由希子の言葉を思い出した。
顔が徐々に熱を帯びてる感じがしたが、精一杯振り払った。
たまたま、偶然、気のせい、
呪文のように胸の中で繰り返しながら、どうしようもない熱から逃げるために外まで全速力で走った。
心拍数も脈拍も、この体温も、
全部 全部、
「走ったせい」と、自分に言い訳をした。