君に届け【短編】
移動の時は、どうしても3年生の教室の前を通らなければならない。
憂うつな気分で、先輩の教室の前を通りすぎようとした、その時。
耳に入ってきた会話。
「ねぇ、北原って2年の宮下って子と仲いいよね」
「は?」
「もしかして、付き合ってるとか?」
「違げーよ!」
「じゃあ好きなんだ?」
「それも違う。好きじゃねーし、ただの後輩」
「なぁーんだ!」
『……………』
なにも言えなくなった。
あぁ、やっぱり先輩はあたしのこと、ただの後輩にしか思ってなかったんだなって。
あたしの想いは一生先輩に届かないんだって。
…もう、やめよう。こんな辛い恋。自分が傷つくだけだ。
あたしはそのまま、移動するのを止め、重い体を動かして早退した。
姫奈たちが心配そうにしてきたけど、これ以上心配かけたくなくて、笑って"大丈夫"と言った。
家に帰ると、誰もいなくて。あぁ、今日はお父さんもお母さんも仕事だなんて思いながら、部屋に向かった。
部屋に入ってすぐ、あたしはベッドに飛び込んだ。