君に届け【短編】
先輩は少し戸惑いがちにあたしに聞いてきた。
その顔は真剣だ。
「…あいつ誰?」
『はい??あいつ?』
あいつって誰?
あたしが不思議そうに首を傾げていると、また先輩が口を開いた。
「だから!土曜にお前と一緒にいた男だよ」
『へ…?』
土曜日にあたしと一緒にいた男って…仁兄のこと!?
って言うか、やっぱりあたしだって気づいてたんだ…。
また不安になってきた。
「で、誰?」
『えっと、兄です』
そう言うと、先輩は呆然としてなにも言わなくなってしまった。
『先輩…?』
心配になって、先輩の顔を覗きこんで見ると、そこには今までに見たことのない、先輩の顔が。
『え……』
あたしまで言葉に詰まり、二人の間に沈黙が流れる。
先輩、なんでそんな顔してるの?先輩らしくないよ?
…先輩は顔を赤くして、恥ずかしいのか下を向いていた。
こんな先輩見たの、初めてだ…。
すると、先輩がゆっくりと顔を上げた。あたしもそれと同時に顔を上げる。