月待ち人
退院明けの土日を挟んだ月曜日。久しぶりに教室に向かえば笑顔のクラスメート達が出迎えてくれた。
懐かしいし素直に嬉しい。由奈もギュッと抱きしめてくれた。
「おかえり桜月」
彼女の背中越しには倉本くんが笑ってる。
おかえりって言ってくれた。
でも彼だけは…奥出くんだけは何も喋らずに私の顔を見てるだけでした。
「奥出くん、今日からまたよろしくね」
「……」
やはり声は聞こえない。彼に何があったのだろうか?
「奥出くんね…今、声が出せないんだ」
由奈が決まり悪そうに口を開いた。
奥出くん本人も苦笑しながら申し訳なさそうに頷いた。
たぶん由奈は原因がわかっている。
「何が原因?って聞いたら答えてくれる」
その問いに彼女は小さく否定を示した。
「今は言えない」
奥出くんの声が消えたのは金曜日の事。
私が倉本くんの話をした翌日
たしかあの時、失恋したと言っていた。
声が出なくなるぐらいに辛かったの?
私の事ばっかり心配してくれてたけど…奥出くんずっと苦しんでたんだね。
ねぇ……あなたを苦しませているのは失恋なんですか?
私では、あなたの苦しみを取る事は無理なんですか?
「…ツキ、桜月ちゃん」
倉本くんに呼ばれて我に返る。
「ごめん、何?」
「いや…なんか気難しい顔してたから気になって」
ごめんね…と言うと倉本くんはいいよと言うみたいに私の頭をクシャリと撫でた。
でも何か違う気がして、そっと彼が触れた髪を触ってみた。
私に足りないものは何なの?
ふっと奥出くんを見ると由奈と楽しそうに笑っている。
イライラが募る、
イヤだ…そんな風に笑わないでよ。
「……だ。いやっヤダ」
私の声は3人には届いてなかったようで何も変わる事は無かった。奥出くんは由奈と私は倉本くんと…それでいいじゃないか…
何が私はそんなにイヤなの
私が好きなのは倉本くん…なのに奥出くんを見る度に胸が苦しくなりました。
神様……あなたが私から奪った記憶は誰の記憶なんですか?
最愛の人との記憶ですか?
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