桃色チェリー
走って、走って、走って。
物心がつく前から施設で育つあたしに、行くあてなんて無かったけれど。
ただ、誰もあたしのことを信じてくれないことが、少しでも味方になってくれないことが、悔しくて悲しくて。
疲れきり、へとへとになるまで走り、施設から相当離れた河川敷の草むらに座り込んだ。
その刹那、ずっとずっと我慢していた涙が頬を滑り落ちる。その涙が出ることさえも悔しくて、誰にも見えないよう、膝を抱え込んだ中に顔を埋めた。
夕暮れの、辺りがオレンジ色に染め上げられるこの時間、小学1年生の女子児童がひとり泣いているこの光景はきっと、誰の目にも異様に映ったに違いないけれど。
そんなあたしに、声をかけてくる大人なんていない。だからあたしはただ、誰の目を気にすることなく、一向に腰を上げることはしなかった。
…――今はまだ、帰りたくない。
他に行く所なんて無いけれど、あたしを信じてくれない人の所になんて。
半ば意地になっているのは否めない。でも全部、先生が悪いんだから。