桃色チェリー
「はーいっ!」
先生の言葉に、ろくに連れて来られた子なんて見ずに、義務的に返事を返す周りの子達。
でもあたしは、先生に手を引かれたまま窓の外に視線を向けるその男の子から、一瞬にして目を奪われてしまった。
それはもう、いつも誰よりも大きな声で返事をするあたしが、返事をすること自体を忘れてしまうほどに。
真っ黒な髪が普通だと、否、真っ黒な髪色ばっかりの施設の中、とても目立つ明るい茶色の髪。
そして思わず魅入ってしまうほど深く、透き通るような明るい緑の瞳。
最初はそう、ただ珍しかったから。だからその子から目が離せなかったのかもしれない。あたしの周りに、そんな髪色で瞳の子は、居なかったから。
「…――ちゃん? 芽梨(めり)ちゃん!」
「…っ?なぁに、せんせい。」
突然耳に響いた先生の声ではっとすれば、目の前には先生と、たった今考えていたその子がいた。