桃色チェリー
「らいくん、いっしょにごはんたべよう。」
「……うん。」
人に近づかない莱君の傍に寄って、一緒にご飯やおやつを食べるのがいつの間にかあたしの日課。
あたしが誘えば莱君は嫌だとは言わないし、あたしはどうしても、莱君を笑わせたかった…否、莱君の笑った顔が見たかったから。だから、進んで莱君を誘った。
綺麗な髪の毛も、キラキラした緑色の瞳も、絶対笑った方が、莱君は素敵なのに。
「らいくんって、どうしてわらわないの?」
そう思った幼いあたしは、まるで彼の心情なんて考えず、単刀直入にそう問い掛けていた。
端を動かす手が止まり、緑色の双眼があたしを不思議そうに見つめる。小首を傾げ、少しだけ考えるような仕草を見せた莱君は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「わらうようなこと、なんにもないからだよ。」
確かにそれは、そうなのかもしれない。
莱君にとっては毎日つまらなくて、面白くなくて。笑うようなことなんて、何一つない。
それでもその答えは、5歳児の口から出た言葉にしては、とても悲しく聞こえた。