桃色チェリー

「らいくん、いっしょにごはんたべよう。」

「……うん。」


人に近づかない莱君の傍に寄って、一緒にご飯やおやつを食べるのがいつの間にかあたしの日課。

あたしが誘えば莱君は嫌だとは言わないし、あたしはどうしても、莱君を笑わせたかった…否、莱君の笑った顔が見たかったから。だから、進んで莱君を誘った。

綺麗な髪の毛も、キラキラした緑色の瞳も、絶対笑った方が、莱君は素敵なのに。


「らいくんって、どうしてわらわないの?」


そう思った幼いあたしは、まるで彼の心情なんて考えず、単刀直入にそう問い掛けていた。

端を動かす手が止まり、緑色の双眼があたしを不思議そうに見つめる。小首を傾げ、少しだけ考えるような仕草を見せた莱君は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「わらうようなこと、なんにもないからだよ。」


確かにそれは、そうなのかもしれない。
莱君にとっては毎日つまらなくて、面白くなくて。笑うようなことなんて、何一つない。

それでもその答えは、5歳児の口から出た言葉にしては、とても悲しく聞こえた。
< 6 / 42 >

この作品をシェア

pagetop