らっく!!
「美弦ちゃんは拒んだらしいです。それで代わりに…体を好きにしろ…と…」
会長はその切れ長の目を伏せた。
紘一さんの表情が見る見るうちに変わる。
「くそっ!!殺してやるっ!!」
ドンッと強い音がして私はあの温厚な紘一さんが壁を叩いたことを知った。
「社長、落ち着いて下さい」
腕に額を押し付けて壁にもたれてしまった紘一さんを秘書の相楽さんが宥める。
紘一さんはそのままの体勢で告げた。
「相楽、あの3人の家の株を買い占めろ。今すぐだ」
「よろしいのですか?」
戸惑っている相楽さんに向かって紘一さんはフンッと鼻で笑う。
「美弦を脅すなんて卑怯な真似をしたんだ。これは俺に対しての宣戦布告だ。何をされても文句はないだろう」
今まで見たことのない紘一さんに私は背筋が凍る思いがした。
美弦を見つめる暖かい眼ではない。
これは…冷徹な経営者の眼だ。
紘一さんが若くして大企業の高梨カンパニーを取り仕切れるのもこの冷徹さがあるからだろう。
「1時間以内に報告しろ」
「かしこまりました」
相楽さんはそれ以上言わず従った。
私と会長に頭を軽く下げると手配のためにこの場を去る。