らっく!!



「匡人…頼みがある」


俺は首から下げていたチェーンを外した。


「美弦に渡しといて」


匡人の目の前に差し出す。


リングは持ち主の心のように左右に揺れていた。


その動きもやがては止まる。


俺にはもうこのリングは必要ない。


「…やだね。理由を言えよ。そうでないと渡さない」


俺は腕を匡人に突きつけたまま答えた。


「美弦は…綺麗すぎるんだ…。俺達と同じ汚い世界で生きるには…純粋で綺麗すぎる…」


傷つけたくない。


美弦の笑顔を守る。


そう決めた。


「じゃあな…」


匡人の手のひらにリングを落として歩き出す。


これでもう未練はない。


匡人を通してリングは美弦の手に渡る。


俺の最初で最後の愛の証。


高梨家を出ると直ぐに車に乗り込んだ。


車内からは青い空が見えた。


美弦…。


心の中で最も愛しい名前を呼ぶ。


美弦に会うのもこれで最後だ。


俺は来週…。


…日本を発つ。


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