愛しの black panther
「こいつ、顔色わりー」
そう葵に言った龍也は、触れかけた手をひくと扉に向かって歩き出した。
「大丈夫ー、あやめさん?」
入れ替わりで葵が傍までやってくる。
部屋を出かけた龍也が、足を止め少し振り返り言った。
「お前の心のままに動け…それだけだ」
"ふっ"と笑った龍也の横顔が、一瞬だけ仁兄に重なって見えた。
「心のままに…か、仁がよく口にしてたな」
切なく微笑んだ葵が、窓から遠くを見つめた。
「仁兄が?」
「うん、"俺は心のままに動く"もう口癖みたいなもんだったな」
「心のままに…」
ぽつりと呟き、暗い夜の海を窓越しに眺めていた。
あたしの心はどう動くんだろう…。
決断の時は直ぐそこまで迫っていた。