愛しの black panther

それはほんの数秒の事だった。



俯く未歩には解らなかっただろうが、あたしには見えていた。



切なそうに未歩を見つめる沢田の姿が…。



きっと沢田も未歩の事は大切なんだ。



なのに…こんなの間違ってる。



「未歩…もう帰れって言っただろ何でここにいる…もうお前に用は無い」



「…やっ…離してっ…あやめの傍にいるっ!」



ばっと腕を振り払い、未歩はあたしに駆け寄った。



「…チッ…勝手にしろ…どうなったってしらねぇからな…」



舌打ちした沢田は、冷たく言い放つと部屋を出て行った。



「…悠くん…」



泣き出しそうな未歩に、かける言葉が見つからない。



「はぁーっ…怒らせちゃった…ごめんねあやめ」



あたしは黙って首を横に振った。
< 154 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop