ミモザの呼ぶ声
「なに?」

「……ボクのせい、なんでしょう? 妹さん……」

「ふっ、何が誰のせいだって?」

 オレは醜く歪んだ顔をあえては見せまいと、わざと無視して作業を続けた。

「きれいだ」

 オレの腕が不覚にも、その一言に作業を中断させられた。

「おまえは退学したんじゃなかったのか」

「うん、キミの思惑通りにね。今は大学専属のモデルをしているよ。聞いてるかも知れないけれど」

「全くもって興味はない。どうしてここに来た」

「別に理由はないよ。ただキミには挨拶を……と言いたいところだけど、まどろっこしいのはキライだよね。キミの妹さんをもらう」

 オレは虫ずが走って筆を投げつけた。

「オレの妹を、なんだって?」

「あのときの子なんだってね、展覧会で倒れた伝説の女の子。ボクの絵で。快挙だったよ。絶賛されたのと同じ悦楽を感じたよ」

「信じられん奴だとは思ってはいたが。ここまで脚色されていたとは知らなかった。オマエは平然とそれを口にする奴なわけだ」

 帰れ、とだけ言ってそっぽを向いた。

「そうはいかない。ボクの性癖は知ってるよね。壊れたものが大好きさ。もちろん壊れかけた今のキミも、ぞくぞくするよ」

 惹かれないわけはないじゃないか、と奴は言葉を締めくくった。
 その唇は未だ乳を求める乳児のようにもむもむとうごめいていた。

「言いたいことがあるなら言ってみろ」
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