先生、好きなんです。
「あ、ここです」
あれから数分経った頃、ようやくほのかの家へ着いた。
「へぇ、けっこうでけぇな」
結城は、ウィーンと窓ガラスを開いて顔を出す。
なんだか、すごく納得した様子なのだが…何に納得したのだろうか。
「じゃあ、私は帰りますね。先生、今日はありがとうございます」
「…俺何かしたか?」
「いや、歴史の話聞いててくれたし送ってくれたし…」
「あぁ、いいんだよ別に。俺が聞きたくて聞いたんだから」
そう言い結城は、ほのかの頭を勢いよく撫でた。
もちろん、撫でられたあとのほのかの姿は無惨なわけで。
「ちょ、髪ボサボサ!」
「ははは、じゃあまたな」
「は、はい、また明日」
ほのかは、そう「さよなら」を告げ、車のドアを開けた矢先――
「山城!」
と、結城に呼ばれ、車とドアのさかえめで止まった。
なんか今日、止められること多い気がする。
「なんですか?」
「また暇があったら、数学室来いよ。…歴史の話また聞かせろ」
「あ、はい。てか、私毎日暇なんですけど」
「じゃあ、毎日来いよ。別にかまわねぇからさ。毎日いるし」
「あはは、じゃあ暇があったら来ます」
今度こそ「さよなら〜」と言い出ていく。
家のドアに手を掛け、後ろを振り返ると、結城の車は動き初め、どこかへ行ってしまう。
ほのかは、見えなくなるまで車を目で追っていた。
そして、見えなくなってから自分の家へ入る。
「……毎日、か…ってなに毎日行こうとしてんの!」
本当に毎日行こうとしている自分に驚きながらも、部屋の向こう側で「お帰りなさ〜い」と叫んでいる母親に向かって、負けじと「ただいま〜!」と叫んだ。