愛しすぎて

化学室に着くと黒く分厚いカーテンが締め切られていて真っ暗だった。
鼻を掠める薬品の匂いはとても不快だ。


「あ、ホルマリン漬けだ」


私は一番奥の棚に魚やクモ、カエルなどのホルマリン漬けが置いてあるのに気付き、その棚に走り寄った。


「わー、気持ち悪い。こんなの作る人の気がしれないね」


そう言いながら振り返ると幸宏は黙々と掃除を始めていた。
慌てて私もホウキを持とうとしたが、またそれを許してくれなかった。

仕方なくホウキを諦め、窓拭きを始めるとゆっくりと雨が降り始めて来た。


「雨?」


雨の降る音が聞こえたのか幸宏はこちらを見ずにそう言った。
私は小さく「うん」と呟くと雨を降らす空をじっと眺めた。


「まだ直らないんだな、その癖」


気付くといつの間にか幸宏は私の隣りに来て一緒に空を見上げていた。


「雪……降るかな」

「降るかもな」


私たちは掃除する事も忘れ、ただずっと、本当にずっと同じ空を眺めていた。
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