*恋の味[上]*【完】


「着きましたよ」

運転手さんの言葉で、私は車の窓から外を覗く。

来ちゃったよ。魔界に。

怪我した人から見ると、そこは天国だろう。

魔界だ。完璧なる魔界だ。

「さっ、行くわよ」

お嬢様口調でも、顔が微笑んでるよ。

そんな嬉しそうな顔しないで。これから会う人は、可愛らしい由良の顔を引きつらせてしまうから。

それくらい恐ろしい悪魔なんだよ。

ルンルンな由良を追いかけながら、後ろを向き、運転手さんに礼を言った。

私は、看護師さんに会いたくないから、由良に身を隠しながら言ったつもり……だったが、

「あら!真麻ちゃん……と、お友達?!やだぁ〜可愛いすぎでしょう!名前なんて言うの?!もう、可愛いすぎる!どう?!息子の嫁にこない?」

でたー。でちゃったよ!

看護師さん魔界トーク!

由良なんか、焦ってるし。

「由良っていうんですけど、彼氏いますよ。じゃ!急いでるんで、失礼しまーす」

看護師さんから逃げた。

放心状態の由良を連れて。

はぁー。疲れた。

「す、凄い肺活量ね」

そっちかい。

「看護師さん、ある意味最強なの。いちいち相手にしちゃダメよ!」

私って、酷いやつかもしれない。


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