*恋の味[上]*【完】
そんな状態の私にお母さんがかけてくれた言葉は、私を“苦”から“楽”に変えてくれた一言だった。
「なーにそんな顔してんのよ」
眉をへの字にしつつも、微笑んでくれた。
いつも通りのお母さんだった。
そんな雰囲気になれたのが嬉しくて、逆に涙腺が緩んだ。
「すみませんねー、不細工で」
「お母さん悲しいわー、顔は似てるから言えないけど。ちょっと性格がねー」
なんて棒読みだった言い合いも、安らぎを与えてくれた。
お母さんは気をつかってくれたんだ。
わざと、「どうしたの?」って言ってこなかったんだと思う。
普通のお母さんだったら、「何学校抜け出してんの?!」とか、「早く戻りなさい!」って叱るでしょ。
ホント、お母さんには参るよ。
でも、いつまでも話さないわけにはいかない。
お母さんだって、私が理由があってここに来たことくらい分かっているだろうから。
「お母さん…」
「なぁに?」
あ、きっと私から言うのを待ってたんだ。
自分から話す時を。