*恋の味[上]*【完】


……………。

お父さんたちが出てから、約3分くらい沈黙が続いた。

最初に沈黙をやぶったのは、千年くんだった。

「あさちゃんは……、これでいいの?」

震えた声でいう。

「…ごめんなさい」

それしか言えない自分に腹が立つ。

「ごめんねっ…真麻!……私、何も支えになれなかった!休んでる間も……何て声をかけたらいいんだろうとか、そんなのばっかり考えてて…結局は何もできなかった!ごめん…、本当にごめんなさい!」

深々と頭を下げて言う由良。

「由良は悪くない!みんなも悪くない!」

謝らないでよ……。

「私ね、小さい頃の夢を見たんだ」

「……え?」

誰かの間の抜けた声がした。

「私……一度、記憶をなくしているの」

「……えっ…」

みんなの表情が驚きに変わる。

「私の所為で…みんな……」

言葉がつまる。

“ガラッ”

「悪ぃ。車のキー忘れてたよ」

お父さんが苦笑いしながら入ってきた。その後ろには、呆れ顔の倉橋くんがいる。

「お父さん……時間ない?」

「ん?…あー……大丈夫だ!」

「えっ……空真さん!」

「蒼空、大丈夫だ」

きっと、用事があったんだろう。

でもお父さんにも聞いてほしいからごめんなさい。


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