4月の雪は溶けなかった
「…………ごめん、もうそろそろここ出るから。俺たちは次行くところがあるんだ。」
女はせんせーの目を見続けている。
苦しそうに、切なそうに。
そして、うつむいた。
「………うん、わかった。じゃあね…」
お昼時をとうに過ぎて、すっかり人がいなくなった静かな店内に、女のヒールの音が鮮明に聞こえた。
せんせーは女の後ろ姿を見ていた。
あたしはケータイを閉じた。
「せんせー?お会計しよ?」
あたしは敢えてあの女のことには一切触れないでおくことにした。
自分からは話題にしないと決めた。
せんせーの少しうつむき気味の顔を覗くと、静かにうなずいた。
あたしたちは店を出た。