4月の雪は溶けなかった
“夢の逢ひは苦しかりけり驚きてかき探れども手にも触れねば”
大伴家持
あたしが調べている和歌。
なんとなく、恋を詠んでいること、なんとなく、切ない歌だということ、これはわかった。
「『夢の中で逢うのは辛いことだなあ。目が覚めて、手探りしてあなたを求めても、その手に触れることも無いのに。』…これは、こういう訳だよ。」
「なんか…切ない歌ですね。」
まるっきり同じではないけれど、あたしがおかれている状況というか、あたしの気持ちというか、とにかく自分のことを詠まれているような気がした。
「昔は恋に悩む貴族が多かったみたいだからね。今みたいに電話もメールもないし、身分の違いもあったからね。」
「…まあ、今でも恋に悩む人はいますからね。………昔はもっと恋するのが大変だったと思います。」
―――せんせー、今のこの時代でも、どんなに便利な世の中になっていても、あたしは恋に悩んでるよ―――
いつもよりもっと切なくなってきた。