キミを求めて
でも、それも一瞬のこと。

パパがこちらに振り向く気配はなく、ただ呟いただけなのだと、すぐに分かった。

と同時に、パパの様子に見入っていた私は、状況を把握する。

荒い息遣いと漏れる呻き声の狭間で聞こえる、水音。

徐々に早められる腕の動きと、ビクビクと震える首筋。

思考は停止し、私はドアノブを握ったまま固まっていた。

一度聞こえ出した水音に意識を持っていかれ、部屋全体に大きく響かせ、淫猥な音が私を包む。

「ゆきの。ゆきの。ゆきのッ…」

振り絞るように何度も『雪乃』と唱える。

先刻あったことを思い出し、堪らずドアを閉める。

音をたてないように、それだけは注意をする。

真っ白にフリーズした頭をふら付かせながら、なんとか部屋にたどり着き、ベッドに倒れる。

全身を布団でくるみ、頭まですっぽりと被る。

真っ暗な視界の中、聞こえるのはパパ声。

激しく、深奥から、発せられた『ゆきの』という言葉。

(あれが私に向けられたものだったら…)

叶わぬ願いは妄想を駆り立て、体を熱くする。

パンクしそうなぐらい脳内を熱くした熱は、胸を灼き、ジワジワと下半身へ向かう。

そして、汗とも、それ以外の何かとも、分からないモノに濡れる。

抑えきれない欲望に促されるまま、熱を孕(はら)んだ秘部に触れる。

くちゅり。

リビングで聞いた淫音似た音を聞き、欲望は一気に高まる。

Tシャツを押し上げ、背中のホックを外し、胸に露わにすると、纏っている下着が邪魔になり、布団の中で体をうごめかす。

腰を曲げ、指にショーツのゴムを引っ掛け腿の付け根まで下ろす。

両足を使って脱いだショーツを床に落とす。

片手を胸に、もう一方を濡れた秘部へ。

瞼を閉じると、悩ましい快感に私は支配された。

そのまま体を委(ゆだ)ね、闇に堕ちた。
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