あんな。めっちゃ、だいすきです。
蔵本さんの低くて落ち着いた声が、室内に響いた。
「一人でなぁ。やから、だいぶこじんまりした店やってんけどな。」
「………」
「けど…せやからこそ、昔なじみの常連さんが、けっこうおってん。」
カルテに書かれとるのを見るんやなくて、はじめて。
蔵本さん自身から話される、蔵本さんの話。
「来るたびにみんな、こないだあったこととかな。こんなん楽しかった〜とか、おいしかった〜とか…いろいろ、話していくねんか。」
「…………」
「…わし、家族おらんからなぁ。あんま、そういうどーでもええ話、聞いたり話したり、せえへんねん。そういう…話したりすんの、店ん中くらいで。」
うなずくたびに、ほっぺたにまだくっついてた涙が動く。
下に下に移動して、あごまで伝って、落ちていく。
「…切り終わったときにな。」
蔵本さんの顔は見えへん。
「みんな、ありがとう〜とか。さっぱりしたわぁ、男前んなったわぁ〜。ありがとう〜ゆうて。…笑って、帰っていくねんか。」
でもすこし…ほんのすこしだけ、声が。