あんな。めっちゃ、だいすきです。
「なんか…そう言われてなぁ。そんとき、"あー、今日も頑張ったなぁ。今日もええ日やったなぁー"って、思えるんよ。」
声が、にじんで。
──思え、とったんよ。
そう言うたとき、蔵本さんの肩が、ふるえとるのがわかった。
蔵本さんの背中。
めっちゃおっきいのに、めっちゃさみしい、背中。
「でももう、手動かへんしなぁ。はさみ…握ることもできへん」
「………」
「できへん…ねん。…悔しーて……めっちゃ、」
「…………っ、」
「…〜っ、悔しーて、なぁ……っ!!」
蔵本さんのきもちがこぼれた瞬間、新しい涙がほおを伝った。
……なんで。
なんで、なんで。
蔵本さんにとっては、病気はただ右っかわがマヒすることやなかった。
右手が動かんくなることは。
ハサミをにぎれへんってことやった。
お店、続けられへんってことやった。
笑える場所、
話せる場所、
あったかい、人の温度がある場所。
…蔵本さんの"家族"が、なくなるってことやった。