あんな。めっちゃ、だいすきです。



「なんか…そう言われてなぁ。そんとき、"あー、今日も頑張ったなぁ。今日もええ日やったなぁー"って、思えるんよ。」




声が、にじんで。




──思え、とったんよ。




そう言うたとき、蔵本さんの肩が、ふるえとるのがわかった。


蔵本さんの背中。


めっちゃおっきいのに、めっちゃさみしい、背中。



「でももう、手動かへんしなぁ。はさみ…握ることもできへん」

「………」

「できへん…ねん。…悔しーて……めっちゃ、」

「…………っ、」


「…〜っ、悔しーて、なぁ……っ!!」




蔵本さんのきもちがこぼれた瞬間、新しい涙がほおを伝った。



……なんで。


なんで、なんで。



蔵本さんにとっては、病気はただ右っかわがマヒすることやなかった。



右手が動かんくなることは。



ハサミをにぎれへんってことやった。


お店、続けられへんってことやった。



笑える場所、

話せる場所、


あったかい、人の温度がある場所。



…蔵本さんの"家族"が、なくなるってことやった。



< 145 / 389 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop