あんな。めっちゃ、だいすきです。


「……はなし?」



…知っとるよ、ていう言葉は飲みこんだ。


だって実は戻ってきて、こっそり引き戸の近くにおったから。



「うん……おとうさんにな、アホかって言われた。」

「…………」


「…おかあさんなぁ、別れようってゆうてん。おとうさんに。…そしたら」

「…………」

「おとうさんにあんなおっきい声で怒られたん…はじめてやったわ」



おかあさんが困ったみたいに笑う表情が、見えなくても伝わってくる。



…ドアのすきまから見えた光景。


たしかにおとうさんはいっつも温和なおとうさんらしくなく怒ってて。



…でもウチ、あの瞬間。




おとうさん、おかあさんのこと愛しとるんやなぁって思ったよ。




「…そっかぁ」

「うん」

「…よかったね、おかあさん」

「うん」



うん、ていうおかあさんの声はほんまに嬉しそうにはずんでて、なんかわいいな、て思ってしまった。



そういえばウチ。


…いっちゃんには、怒られたことないなぁ。



たまに虫の居所が悪くてウチが嫌な態度とってまう時もあるし、ワガママ言うてしまう時もあるけど。



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