あんな。めっちゃ、だいすきです。


小鹿がなんとか〜て、おかあさん言うとったけど。


そんなんウチやってめっちゃ緊張してまう。



ひざの上でこぶしを作ってじっとしてたら、ソワソワキョロキョロと怪しい動きを繰り返したおかあさんがこっちに戻ってきた。



…あれ、おかあさん口紅濃くなってない?




「お待たせしました」



その直後のタイミングで、ちょっとよそゆきのいっちゃんの声。


鼻先を、お腹の底をくすぐる香りが横切った。



「…いっちゃん」

「来てくれたんやな、ありがとう」



にっこり笑ういっちゃんの手には、こんもり盛られた2皿のカレー。


湯気がほくほく、ほかほか立ちのぼっとる。



「いっちゃん。できるん早いなぁ」

「ソッコーで作ったもん。ええと、こっちがあぶり皮つきチキンと完熟トマトの煮込みカレーで、こっちは手むきエビと夏野菜のオリジナルカレーです」



違う種類の方が、かえっこして食べやすいやろ。

いっちゃんはそう言ってにこって笑った。



…いっちゃんの視線が、おかあさんの方に流れる。



< 271 / 389 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop