あんな。めっちゃ、だいすきです。


…しばらく声を聞くこともないし、顔を見ることもないねんなぁ。


目の前の、自分よりずっとおっきいいっちゃんの肩幅。



「なぁ、みとも」



いっちゃんの声が後ろに流されてきて、ヘルメットの下の耳に入る。


なに、いっちゃん。



「…ちょっと遠回りしていこか」



真っすぐ駅に行ってしまうんやなくて、その前に。



いっちゃんの言葉に、胸の奥だか底だかわからへんけど、きゅうってなった。



うん。

…うん。



うん、いっちゃん。遠回りしてこう。



うん、て、何度も言うかわりに、こつん。



ヘルメットをぶつけて、きゅうって、目の前の背中に抱きついた。








しばらくずうっと走って、知っとる景色をとおりこして、あんま知らん景色ばっかが続いて。


でも山道をバイクの車輪が登り始めたとき、頭が…っていうより、体が覚えてたんかな。



なんかふいに、なつかしさがこみあげてってん。




もしかして。



そう思ったとき、バイクが大きくひらけた場所に出て。



ゆっくりゆるめられていくスピード。



体に当たる風圧が、弱くなる。



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