キミはいつも意味を持たない
・へりくつ
藍色の空は一日の終わりを告げると共に、一層冷えた空気を送り込む。
「うう、寒い」
効き過ぎなくらい暖房で暖められたオフィスから出た後の、外気との温度差は本当に堪える。
マフラーを忘れた今日なんかは、特に辛い。
背中をきゅっと丸めて帰路を急いでいると。
「あの、すみません」
背後からの声に振り返って見ると、そこに居たのは幼さの残る顔つきに学生服を着た男の子。
見ただけで分かる。
高校生。
高校生に知り合いなんか居ない。
だけど何となく、顔は見覚えがあるような気がして、あたしは記憶の中の知人フォルダを開けてみる。
ひょろりと背が高くて、赤みがかった茶髪。大きすぎない涼しげな目元。
だけど誰とも一致しない。
知り合いの弟とかその辺かしら。
うーん、分からない。
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