キミはいつも意味を持たない
「呼び方、名前にして下さいよ」
少し拗ねたような瞳を寄越す彼に、あたしはげんなりした。
どうだって良いじゃない、呼び方なんて。
だけと彼が呼び捨てを特別な意味に取るのなら、安易に応じられない気もした。
「ねえ、智子さん。良いでしょ?」
「……呼ばせてみてよ」
あたしは犬っころみたいなキラキラした瞳を、敢えて冷ややかに見つめた。
「あたしが思わず呼んでしまうくらい、キミの名前をあたしに刷り込んでみせてよ」
我ながら面倒臭いことを言ってると思う。
あたしはやっぱり、彼との距離を縮めてしまわないように適度に離れてようとしているんだろう。
縮まらない距離に嫌気がさして、向こうから離れていくのを待ってるんだ。
それが一番穏便だから。