キミはいつも意味を持たない
「ハァーーーー」
「智子、幸せ逃げたよ」
オフィスのパソコンの前で長ーいため息をついたあたしに、資料から目を離さないまま同期の由美が言う。
「最初っからそんなもん持ってないわよ」
あたしは独り言みたいに呟いて仕事を再開した。
デスクワークって楽じゃない。目は疲れるし、肩は凝る。
「ねぇ、何そのマフラー」
由美がさっきまで資料を見つめていた視線を、あたしのバッグの方に移していた。
あたしもチラッと目をやると、あたしの愛用のストールとは違う黒いマフラー。
「あー、借り物」
「は? 誰によ」
誰、と言われても困る。
相手が知らない人の事を話す場合、たいていその人との間柄を説明するものだけど。
「保留中のオトコ」
「オトコ? 何それ、聞いてないよ」
聞いてないもなにも、あたしだってこんな事態になるなんて聞いてない。