キミはいつも意味を持たない

「智子?」


不意に後ろから名前を呼ばれる。

低くて厚みのあるこの声を、あたしは知っていた。


「……堀川さん」


振り返ったそこに居たのは、しばらく引きずった恋愛の相手でもある、元恋人の堀川さんだった。


「久しぶりだな」

「……はい」


あたしの中で彼との別れは、結構な大失恋だった。

なのに当の堀川さんは何のわだかまりもないように話す。

あたしとの別れは、1ミリも痛手じゃなかったみたいに。

あたしは何となく惨めな気持ちが滲んできてしまい、少し俯く。


「そこの彼は連れか?」


堀川さんの声で顔を上げると、視線が空人に向いていた。

空人は状況をあまりよく理解していないらしく、キョトンとしている。
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