キミはいつも意味を持たない
その日は思いがけず早めに仕事を切り上げることができた。
由美を誘って食事にでも行きたかったけれど、彼女は合コンに行くんだと張り切って出て行った。
あたしも行かないかと誘われたけれど断った。
知らないオトコに媚びを売る気分じゃなくて。
「あぁ、下らない」
独り呟いた声は、白く染まって冷えた空気に溶けていく。
あたしはせっかく早く退社できたっていうのに、真っ直ぐマンションに帰るハメになった。
まぁいいや。
たまにはゆっくりしよう。
久しぶりに手の込んだ夕食を作ろうと思いたち、あたしはスーパーに向かう。
そしてその途中、見知った横顔を見つけた。
「……空人」
思わず口に出した彼の名前。まさか聞こえるはずなんかないけど、空人は不意にこちらを向いた。