キミはいつも意味を持たない

「見ないでって、言ってるでしょ」

「だから、見えないってば」


そう言って空人は一層腕に力をこめた。

初めて知る、空人の胸板の厚みと温度。
柔らかに抱きしめる腕の、力強さと優しさ。

いつかに借りたマフラーと同じ、空人の香りがした。


「関係ないなんて言わないでよ。へこむ」


耳元で空人の声がして、迂闊にも耳が熱くなる。

あたしはそれをごまかすように、空人の胸に顔を押し付けた。


「あたしのこと、もう好きじゃないんでしょ?」

「ええ? そんな訳ないよ」


全く理解できないというように空人が言う。


「連絡しなかったり、女の子と歩いてたりしたじゃない。何のつもり? そうすればあたしが追いかけると思ったの?」


あたしはあたし自身の言葉をすごく情けないと思った。

だけど言わずにはいられなくて。

そんなあたしに空人は少し苛立ったみたいな声で小さく呟く。


「なんでそんな言い方するんだよ。そんな訳ないだろ」
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