キミはいつも意味を持たない
オフィスを出るとやっぱり寒い。今日はストールがあるのがせめてもの救いだ。
「智子さーん!」
突然大きな声で呼ばれ、あたしはバッと顔を上げる。
すると道路を挟んだ向こう側に、すごい笑顔で手を振る彼が居た。
あんな声で呼ばれれば当然、周囲の視線はあたしに集まる。
「アイツめ……」
あたしはボソッと呟いて、ストールに目一杯顔を埋めて彼の元に向かった。
「恥ずかしいじゃない。何考えてるのよ」
あたしが不機嫌にそう言うと、ちょっとだけ困ったように眉を下げ、それでもニッと笑った。
「何も考えてなかった。智子さんを見つけたのが嬉しくて、つい」
そんな、恥ずかしい台詞も惜し気もなく吐いちゃうのね、ティーンエージャーは。
「次からは、考えてから行動してよね」
ため息と共にそう言うと、彼はふわぁっと幸せそうに笑った。