キミはいつも意味を持たない
空人は肩にかかったあたしの髪をゆっくりと耳にかける。
「実は、俺にとってもこれは賭けなんだ」
「え?」
「智子さんも俺をずっと待っていてくれるかどうか、ってね」
髪に触れる空人の指がかすかに震えているように感じるのは、あたしの気のせいだろうか。
「“お帰りなさい”を言うのが精一杯だった憧れの人が、俺を好きだって、言ってくれたんだよ?」
信じられない、と言いたげに目を見開いてみせる空人。
コンビニでレジを打つ、まだ名前も知らなかった頃の空人を思い出す。
「ほんとならすぐに俺のものにして、絶対離れないように紐でぐるぐる巻きにしたいぐらいだ」
おどけて冗談っぽく言う空人に、あたしは少し笑う。