キミはいつも意味を持たない

空人は肩にかかったあたしの髪をゆっくりと耳にかける。


「実は、俺にとってもこれは賭けなんだ」

「え?」

「智子さんも俺をずっと待っていてくれるかどうか、ってね」


髪に触れる空人の指がかすかに震えているように感じるのは、あたしの気のせいだろうか。


「“お帰りなさい”を言うのが精一杯だった憧れの人が、俺を好きだって、言ってくれたんだよ?」


信じられない、と言いたげに目を見開いてみせる空人。

コンビニでレジを打つ、まだ名前も知らなかった頃の空人を思い出す。


「ほんとならすぐに俺のものにして、絶対離れないように紐でぐるぐる巻きにしたいぐらいだ」


おどけて冗談っぽく言う空人に、あたしは少し笑う。
< 63 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop