押しかけ×執事
「あたし――っ……」

 気がつくと、自分ではもうどうにも出来なくて。

 俯いてぎゅっとスカートを握り締めながら、無意識で言葉がこぼれ出ていた。

「さつきちゃん?」

 お兄さんが不思議そうにあたしに声をかけてくれたけど、

「っ!」

 立ち上がり、お母さんの骨壷を両手でその胸に抱き締め、テーブルの向こうに駆け出す。

 綺麗に閉じていた襖に手を伸ばすと、

「さつきちゃん、どうしたの?」

 後ろからお兄さんの声がかかる。

「ここに、居たい――っ」

 搾り出すようにそれだけを言うと、開いた襖の向こうへと飛び込む。

 後ろ手で襖を閉めると、そのままゆっくりと薄暗い部屋に座り込む。

 襖を背にし、その胸にお母さんを抱き締めたまま。

 しっかりと「頭」では分かっているつもりだった。

 ここに居られないこと、そして――あたしの環境も変わること。

 でもそのときのあたしの「心」が、この急激な変化についていけなかった。
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