押しかけ×執事
「さつきちゃん――さつきちゃん?」

 とんとん、と襖を小さくノックする音。

 そしてお兄さんの声。

「……」

 その振動を背中に感じながら、返事もせずに黙って座り込むあたし。

「……仲春の家に、帰ろうか。さつきちゃんのためにちゃんと部屋も用意させてあるし、家具が気に入らなければ明日にでも全て取り替えさせる。なにより、きみを独りにさせない。だから――」

「――あたしの家は、ここです」

 ぎゅ、とお母さんを抱き締めながら、あたしは声を振り絞ってそう言う。

「高校に入ったら働きます。無理なら高校を辞めて働くつもりです。あたし、ここ以外に居たくない……っ!」

 一気に心の中のものを吐き出したあと、

「この家があたしとお母さんの家なんです――っ!」

 そう言ってあたしは畳の上に涙をこぼした。

 ぽつ、ぽつ――気がつけば、涙は水溜りを作るように畳の上に落ちている。

 わがままなことだって分かっていた。

 けれど、何事もなく過ぎようとしているこの時間が受け入れられなくて。

 強く困らせることだって分かっていても――あたしは精一杯の抵抗をしたかったのかも知れない。
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