押しかけ×執事
「……」

 襖を開けた先は、お母さんが寝起きする場所。

 縦長の部屋だったから、そのまま真っ直ぐ先には小さな台所と玄関が見える。

 お母さんが居ないから、部屋には小さな折りたたみテーブルを出したまま。

 誰もいないと思っていた。

 けれど、そのテーブルを端に寄せ、誰かが横になって眠っている。

 誰……?

 恐怖と驚きで早くなる鼓動を抑え、あたしはそっと足音を立てないようにしながら一歩前に踏み出し、寝ている人を確認。

 壁に向かって横を向いて寝ていたその人。

 部屋にあった座布団を半分に折って枕にしている。

 3月だけどまだ寒いから、上着を脱いで掛け布団のようにして上半身にかけて、体を丸めて寝ていた。

 ぐっすり眠っているのか、それともあたしがすごく静かに近づいたのか分からないけど、起きる様子はない。

「……」

 そっと近づき、そして顔を見て――驚いた。

 静かに眠っている人は――

 お兄さん、だったから。
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