押しかけ×執事
「長い間離れていたとはいえ、さつきちゃんのことを忘れたことはなかったよ。また兄妹になれた嬉しさもあって、さつきちゃんが愛しくてたまらなかった。だから、これからはぼくは優子さん以上にさつきちゃんのことを大切にしてあげたいんだ」

 優しい微笑みでそう言ってくれるお兄さん。

 きっと、本当にあたしのことを考えてくれているんだと思う。

 病室で出会って以降も、毎日のようにお見舞いに来てくれた。

 滞在する時間は短かったり長かったりしたけど、お母さんのために果物を持ってきてくれたり、あたしのためにクッキーやチョコを持ってきてくれたりもしてくれたお兄さん。

 優しさがなければ、きっとあそこまでしてくれないと思う。

 ……ここに居たいって、わがままよね。

 こんなにもお兄さんはあたしを大切にしようとしてくれているのに。

 肝心のあたしは、小さなわがままでここに残った。

 しかも、仲春の家に帰りたいお兄さんをここに泊めてしまって……

 お兄さんに、ちゃんと謝らなきゃ――

「あの……お兄さん。あたし――」

 お母さんから視線を上げると、意を決してお兄さんに顔を向けて口を開こうとした瞬間、

 コンコン――

 アパートの玄関から、ドアをノックする音が聞こえてきた。
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