半熟cherryⅡ
……今“ヒロキ”って言ったよな。
茜のいなくなったリビングで。
頭の中でリピートされる名前。
“ヒロキ”って。
“あの日”茜が。
求めるように何度も何度も。
呼んだ名前…。
ガンッ。
玄関から大きな音がした。
「…しっかりチェーンかけてあるんだ…」
ガッカリしたような苦笑混じりの声が聞こえる。
「なんで合鍵なんて持ってるの?!」
「前に鍵借りた時に作っといた」
「最低…」
「色々誤解もあったみたいだし?
ちゃんと話そう」
「どこに誤解があるの?!
“好きな人ができた、別れよう”
そう言ったのはヒロキでしょ?!」
リビングの入り口は開いたまま。
2人の会話は丸聞こえだった。
…俺の、担任…。
…茜の、元彼…。
いろんな“点”が。
いろんな角度から線で結ばれていく。
茜はあの日。
コイツのコトを思ってヤケ酒したのか…。
コイツのコトを考えながら。
俺に抱かれてたのか…。