三日月ロマンチカ 【短編】
夢を見た。
まだ、幸せだった頃の夢。
当たり前のように家族がいて、あいつがいた、幻のように儚い夢。
「ユリエさんが作ってくれたご飯が、不味いって言うの?ショウ」
「ち…違ぇよ、母さん!!ちょっとつまみ食いしたからあんま腹減ってなくて…。あ、後で食う!」
「…お前はまたつまみ食いを…。よし、父さんが食ってやろう」
「や め ろ ! ! これはおれのだ!!」
「お兄ちゃん、見苦しい争いやめてよ……」
「う、うるせーな!!ミユキこそダイエットなんてマセたことしてんじゃねぇよ!!」
「だってわたしこんな太っちゃったもん。ユリエさんのご飯美味しいから、ついつい食べちゃって」
「良い家政婦さんが入ったなぁ、前のマユカさんはアレだったからな…」
「まぁお父さん。マユカさんは2週間と経たずに辞めたのよ。比べたらユリエさんに失礼だわ」
「(そういう母さんはマユカさんに失礼だけどな!)」
「…あら、ショウ。なにか言いたそうな顔ね」
「ぎくっ!!な、なんのことだよ!?」
「……わっかりやす」
「み、ミユキー!!」
幸せすぎて、色褪せることを知らない過去。
もう戻ることができないとわかっているくせに、おれは過去に縋りたくなる。
……とは言え、この夢を見たのはあの日以来初めてだ。