三日月ロマンチカ 【短編】


「ぅ゙、おえ゙っ…!!」



喉の奥からせり上がってくる嘔吐感を無理やり抑え込み、じわじわと潤みだす目をみはった。


……なんだよ、これ。


赤色の海にぽつんと立っていたのは、家政婦の制服を赤く染めたユリエさんだった。


彼女の右手には、トンカチが一つ握られている。


通常なら釘などを打つはずの部分には、凝固した赤黒いなにかがびっしりとこびりついていた。



あれは、血だ。



そう考えると、この悪臭にも説明がつく。


血だ。
血。
赤い。
血。
臭い。
血。
血。
吐き気。
血。
頭痛。
血。
血。
血。
血。



―――――血?



なんで血が、こんなにぶちまけられてるんだ?



「……早かったのね、ショウちゃん」



ゆらり、と。


ひどく億劫そうに、ユリエさんがおれの方を向いた。


サアッと、血の気が引くのを感じた。


彼女は、
彼女は、
彼女は、
彼女は、




笑っていた。



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