三日月ロマンチカ 【短編】

ザー…ザー…


壊れたテレビのノイズさながら、騒音を撒き散らす雨。


うるさい。
うるさい。
うるさい。
うるさい。

入って来るな。



“ショウ”



やめろ。



“ショウ”



おれの、きおく、に、



「たろうちゃん!!寝てるのー?」



意味もなく閉じていた瞳を開けると、頬を上気させた維奈がおれを覗き込むようにして立っていた。


バカみたいに間延びした声が、不本意ながら安心感を与える。


…くそ、なんでおれが。


こんな意識してんだよ、こいつのこと。



「…寝てねーし。お前おっそいんだよ」



泣き腫らした維奈の目は真っ赤だ。

充血している。


うさぎみたいだな、なんて。


とうとうおれはイカレちまったらしい。


自分がなんつーか、…気持ち悪ぃ。



「………えへへ…ちょっとお風呂でも泣いちゃって、遅くなったの」



維奈はおれの隣に座ると、ソファの背もたれに身体を預けて天井を仰ぎ見た。


ソファが振動で少し軋む。


照れ笑いにも聞こえるそれの真相を確かめようとして、伏せていた顔を上げたときだった。




「―――あたし、フラれちゃったみたい」




維奈の双眸から真珠のような雫がこぼれ落ちた。


せっかく着替えたスカートに真新しい染みができる。


ぽたり、ぽたり。


…心がざわついて叫び出したくなるこの衝動は、なんだ。



「たろうちゃんの話、したの。…あ、彼、コウちゃんって言うんだけど…。そのコウちゃんがね、今すぐにたろうちゃんを追い出せなんてひどいこと言ったんだよ」



どくり、と。

心臓が嫌な音を立てた。
< 21 / 36 >

この作品をシェア

pagetop