三日月ロマンチカ 【短編】
維奈の言葉をうまく処理できない。
動揺しているおれをよそに、話はそのまま続けられた。
「それで口論になって…でもあたし、我慢できなくて…コウちゃんなんて嫌い!!って言っちゃったの。……コウちゃんも黙ったままで、…だからあたし勝手に帰ってきちゃって…」
傘もね、差す気になれなくて。
せっかくコウちゃんが貸してくれたんだけど、…なんて。
無駄に明るい声音。
維奈は服の袖でごしごし目を擦り、涙を拭い取った。
ああ……苦しそうな顔、だ。
おれは眩しいものでも見るように目を細めた。
ちくり、と。
針で刺されたように胸が痛む。
ああ、なんだ、そうか。
―――おれのせいで、維奈は泣いていたのか。
「………そうか」
渇いた口内からなんとかそれだけ絞り出した。
水が飲みたい。
なんでこんなに口ん中、カラカラなんだよ。
「コウちゃんが悪いんだよ!!追い出すなんてひどいよね?たろうちゃんの身にもなって!って感じだよ!!」
維奈は拗ねたように口を尖らせ、それから目線を床に落とした。
でも…もうおれの耳に、維奈の声は届いていなかった。