三日月ロマンチカ 【短編】


遠くの方で雷の音がした。

気が、する。


周りの音がうまく耳に入ってこない。


時計の音がうるさいだけだ。



「ふぁああっ…なんか眠くなってきちゃった…」



泣き疲れたらしい。


大きな欠伸をこぼし、維奈はソファに横たわった。

みるみるうちに大きな瞳が閉ざされる。


腫れぼったい瞼。


明日になったらもう、元に戻っているのか。

それとも、その顔でまた出掛けて行くのか。


そんなことを不安に思った。



「……寝ちまったか」



おれがやっと決心したときには、小さな寝息が聞こえていた。


規則的な呼吸で胸が上下する。

深く寝入っていることにおれは安堵した。



「………おれって疫病神、かもな」



家族の無残な死に様が脳裏を過ぎる。

ユリエさんの鬼のような形相に怯えて、どうにかその場から逃げだした。


以前一緒に住んでいたミカは病死した。

おれのせいじゃないかと疑われて、無実なのに逃げ出した。


いつも、そうだ。


おれはなにかから逃げ続けて、結局、居場所を失って。



「…………おれのせいでごめんな。彼氏…コウちゃんとうまくやれよ。おれがいなくなったこと言えば、すぐに仲直りできるって。……気にすんなよ、おれ、こういうの慣れてるし。もともと公園と友達んとこハシゴして暮らしてたんだ。……お前に拾われなきゃ、おれは、ずっと………」



維奈は答えない。

当たり前だ、寝てるんだから。



「…朝飯、すっげー美味かった。……1日だったけど…お前が優しいことは十分わかったよ。………ありがとな」



それだけ言ってリビングを出た。


ひとりなんて慣れてるはずなのに、ここを離れることがどうしようもなく心細く感じた。
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