三日月ロマンチカ 【短編】
ザー…ザー…
雨がうるさい。
ザー…ザー…
ノイズは止まない。
ザー…ザー…
時計の音は、
ザー…ザー…
もう、
ザー…ザー…
聞こえない。
「………くそ、冷てぇ」
玄関のドアには床に転がったままの傘の切っ先が挟まっていて、わずかに開いていた。
まるで“コウちゃん”がおれに出て行けと促しているようで。
苛立ちをそのまま奴に向ける。
躊躇いなく傘を踏みつけて、おれは土砂降りの外へと歩き出した。
後悔はない、…と言ったら嘘になる。
おれはたった1日でもタダで居候してたんだ。
維奈になにも返してやれないことが申し訳ない。
ほんとは、おれだって、
「…………………だから冷てぇんだよ」
お前と暮らしてみたかったよ。
「……寒ぃな、クソ」
でも、彼氏が許さないのは当然だろ?
ひとつ屋根の下に、おれと維奈が暮らしてるなんて。
しょうがないんだ。
しょうがない。
誰も悪くはなくて、誰も責められない。
そうだ。
当たり前だ。
おれは所詮、居場所のない放浪者なんだ。