三日月ロマンチカ 【短編】


雨で濡れた毛がぺたりと張り付く。


目に入って痛い。



「…あーくそっ!!!痛くて涙、出るっ…」



そんな誤魔化しは要らない。


おれの隣には誰もいないんだから。


顔を見られる心配だってない。


どんな酷い表情をしてたってわからない。


なのに。



「…………お、おれ様がんなことで泣くわけねーだろ!!バッカじゃねぇの!?ほんと、目ェ…痛ぇ…」




“痛いのは心でしょう?”




母さんがいたら、たぶんこう言うんだ。


全部見透かした顔をして、少し寂しそうな顔をして。


…記憶の中から霞むことのない面影。



「……バカか、おれは」



ちょっと優しくされただけだろ。


舞い上がってんじゃねぇよ。


今まで何度もあっただろうが。


飯を食わせてもらったり、そいつん家で一緒に寝たり。


たまたま、だ。


維奈だけだと思わなければいい。


今すぐにでも他の奴がおれに優しくしてきたら、



こんな感情は、

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