三日月ロマンチカ 【短編】


“たろうちゃん!!”




「っ……」



そんな変な名前で呼ばれたのは、初めてだ。


ネーミングセンス最悪なんだよお前。


おれ様のこの鋭い双眸を見てよく“たろうちゃん”なんつー平和ボケした名前思いついたよな。


ああ、維奈、お前の頭ん中がボケてんのか。


そっかそっか。


そうだよな、ほんと、お前、


お人好しで…



「………いつまでうだうだ言ってんだ、おれ」



はた、と足を止めた。


…おれの居場所はやっぱりここにしかなくて。



「はは、また戻ってきちまったな…」



維奈と初めて会った公園。


おれにとってはすっかりなじみの場所なのに。


たった1日離れていただけなのに。


…なんでこんなに寂れて見えるんだ?



「さすがにこんな雨だとガキの1人もいやしねぇ、…当然か」



ぐっしょりと濡れた身体を引き摺り、屋根のついたベンチに腰掛けた。

あの日、おれが寝ていたベンチ。


…こんなに狭かったか?



「あー!!!寒ぃ寒ぃ寒ぃ!!!!」



誰にも聞こえないとわかっていて叫んだ。


ザーザーうるさい雨音に紛れてどうせ誰の耳にも届かない。


わかってる。


おれは、ひとりだ。



「…………ハッ」



零れたのはおれ自身への嘲笑。
< 26 / 36 >

この作品をシェア

pagetop