三日月ロマンチカ 【短編】
“たろうちゃん!!”
「っ……」
そんな変な名前で呼ばれたのは、初めてだ。
ネーミングセンス最悪なんだよお前。
おれ様のこの鋭い双眸を見てよく“たろうちゃん”なんつー平和ボケした名前思いついたよな。
ああ、維奈、お前の頭ん中がボケてんのか。
そっかそっか。
そうだよな、ほんと、お前、
お人好しで…
「………いつまでうだうだ言ってんだ、おれ」
はた、と足を止めた。
…おれの居場所はやっぱりここにしかなくて。
「はは、また戻ってきちまったな…」
維奈と初めて会った公園。
おれにとってはすっかりなじみの場所なのに。
たった1日離れていただけなのに。
…なんでこんなに寂れて見えるんだ?
「さすがにこんな雨だとガキの1人もいやしねぇ、…当然か」
ぐっしょりと濡れた身体を引き摺り、屋根のついたベンチに腰掛けた。
あの日、おれが寝ていたベンチ。
…こんなに狭かったか?
「あー!!!寒ぃ寒ぃ寒ぃ!!!!」
誰にも聞こえないとわかっていて叫んだ。
ザーザーうるさい雨音に紛れてどうせ誰の耳にも届かない。
わかってる。
おれは、ひとりだ。
「…………ハッ」
零れたのはおれ自身への嘲笑。