三日月ロマンチカ 【短編】


走馬灯というやつかもしれない。


脳内で、瞼の奥で。


モノクロの写真が、徐々に色を持ち始める。


…真っ赤な写真のところでそれはぴたりと止まった。



「………っ、やめろ…」



見たくない。

思い出したくない。


忘れたいのに。

忘れることはできない。


血染めの、写真―――



「っは、…うぁぁああああっ!!!!!!」



意識の中のおれは苦しそうに叫び、頭を抱えて蹲った。


…向こう側にいる“おれ”を見ている“おれ”は誰なんだろう。


写真がすべて赤く染まる。


おれを取り囲むように、視界が赤で覆い尽くされる。


赤い。
赤い。
臭い。
血。
血。
赤い。
赤い。
血。
血。
赤い。
血。
血。
臭い。


写真のはず、なのに。


なんでこんな鼻を突く臭いがするんだよ。



“ショウちゃん”



にたりと笑うユリエさんの顔が脳にこびりついて離れない。


消えろ、失せろ。


誰かおれの記憶から抹消しろ。


あんなやつの、顔、なんて、



“ショウちゃん”



やめろ!!!!!!!!


おれは人間なんて嫌いだ。


自分以外の全てを否定したくて言ってるんじゃない。


そんな変な感情はない。


ただ、ただ……許せないんだ。



「っあああ、あああああああああっ…!!!!!!!」



ユリエさんはあの後、逮捕された。


証拠はおれの家族の死体と一緒にごろごろ転がってる。


なんの問題もなく有罪だった。



―――罪状は、

< 28 / 36 >

この作品をシェア

pagetop